北国から2000キロ 無常との競争
北海道 塚本 紀明(仮名)
北海道から、塚本 紀明さん(66)は毎月親鸞会館に参詣している。昨年、突然の出来事で、聞法に一層拍車がかかったという。何があったのか。
「これから富山の親鸞会に行くぞという時は、仏法を聞けるという思いで、うれしくってねぇ。エネルギーがわいてくるんですよ。報恩講に参詣してから一休みじゃ、後生に間に合わないじゃないですか」
屈託なく話す塚本さんだが、昨年初め、人知れず悶々と悩んだことがあった。トイレが極端に近くなり、検査を受けたところ、前立腺ガンだったのだ。
衝撃だった。〝死〟の大問題が突然、眼前に突きつけられた。
「何で、私がガンに?悪い夢ではないか、このまま死ぬのか。後生はどうなる。何かの間違いでは……?」
うつろな心の中を、いろんな思いが去来した。
死は免れないだろうと、遺言状をしたためながら、一人静かに人生を振り返り、思案を巡らせた。"因果の道理は間違いないのだから、この病とて、ほかのだれのせいでもない。自分のまいたタネが現れたのだ"と思ったら、少し落ち着いた。
「残された人生、聞法にかけよう!」
時限爆弾抱える
幸いガンは、初期であったため、治癒の見込みが高いことが分かった。医師と相談のうえ、2月から放射線治療を始める。
無常が背後に迫っている、と思ったら、「治療中だから」は言い訳にはならない。家族の協力を得て、体力と相談しながら、病気になる前と同様、片道千キロの親鸞会館に参詣し、自宅での法話も続けた。
2カ月の治療が終わり、あとは、経過を見守るだけとなる。3カ月ごとの検査で、
「数値は、順調に下がっていますよ」
と医者が言うと、ホッと胸をなで下ろす。
しかし、再発の危険性は、ゼロではないという。
「8、9割は治っても、完治はないらしいから、時限爆弾みたいなものですよ。だから、一日も早く、弥陀の本願、聞き開かせていただきたいんです」
月1回だった親鸞会館での聞法も、仕事を辞めてから、月2回、3回と、2000畳へ参詣している。
* *
「火宅無常の世界は、当てにならないものばかり。弥陀の本願こそ、命懸けて悔いないと知らされます。この冬は、冬眠している暇はないですよ。体調は、おかげさまで順調なので、あとは実践あるのみ。親鸞会の法友と会って話すと、とっても元気になれるしね。
雪は大丈夫かって?
蓮如上人がおっしゃっているでしょ。雨風雪はもののかずかは、って」