「騙されても後悔しない」と仰ったのはなぜか

寒椿


 関東で20年、ひたすら弥陀の本願宣布に徹された親鸞聖人は、還暦過ぎて故郷の京都へ帰り、著作の業に専念された。その後、関東では、同行の信仰を動乱させる事件が続発する。

「念仏は地獄に堕つる業」と触れ回る日蓮が現れたことと、「秘密の法文」をでっち上げた長子・善鸞の邪義である。

 深刻な惑乱に騒然とする中、「ぜひ親鸞さまに、直に本当のところを聞きたい」と同朋たちの代表が、ついに京行きを決意する。当時、徒歩で数十日はかかったという関東と京都の間には、箱根の山や大井川、山賊や盗賊もウロウロし、旅の難所は幾つもあった。生きて帰れる保証は何もない、今生最後の聞法と覚悟しての旅路であった。

 そんな同朋らに対する、聖人の鬼気迫る直言が『歎異抄』に記されている。

「おのおの十余ヶ国の境を越えて、身命を顧みずして訪ね来らしめたまう御志、ひとえに往生極楽の道を問い聞かんがためなり」
(『歎異抄』第2章)


「あなた方が十余カ国の山河を越え、はるばる関東から身命を顧みず、この親鸞を訪ねられたお気持ちは、極楽に生まれる道ただ一つ、問いただすがためであろう」

 関東で20年、「往生極楽の道」以外、聖人の教えはなかったことが知らされる。「往生極楽の道」とは、「必ず極楽浄土へ往ける身(往生一定)にしてみせる」と誓われた、阿弥陀仏の本願(お約束)のことである。その弥陀の誓願に疑いが生じた関東の同行は、親鸞聖人お一人を命として、京都まで参じたのであった。

 だが聖人は、秘密の法文などもってのほかと、「それほど信じられぬ親鸞ならば、奈良や比叡に行って、ド偉い学者に聞かれるがよい」と、痛烈な皮肉で一刀両断。返す刀で「念仏は浄土に生まれる因なのか、地獄に堕つる業なのか、全くもって知るところではない」と突っぱね、鮮明不動の信心を露出されるのであった。

 ついには「たとい法然聖人にすかされまいらせて、念仏して地獄に堕ちたりとも、さらに後悔すべからず候」と言い放たれている。
「法然上人になら、騙されて地獄に堕ちても、なんら後悔しない」
の断言は、『歎異抄』でも特に知られるハイライトだ。親鸞聖人が、いかに法然上人を尊敬し、信じ抜かれていたか知らされる。

 いくら借金を頼まれても、不正直な者には、とても貸せない。我々が誰かを信じるのは、「騙さない人」と思えばこそである。深く信用していた相手に大金を騙し取られたら、後悔では済まないだろう。「騙されても後悔しない」という信じ方は、この世にありえないことなのである。

 まして親鸞聖人は、9歳の時に真っ暗な後生に驚かれ、比叡山で20年間、血みどろのご修行に身を投じられた方である。地獄に堕つる一大事の解決に、青春の全てを懸けられた聖人が、「地獄に堕ちてもさらに後悔なし」と言い切られる重さは、世間に比するものがない。

 一切の常識を超えた、この聖人の確言は、どこからなされたものなのであろうか。

 29歳の御時、法然上人から弥陀の本願を聞かれた親鸞聖人は、その誓いどおり往生一定に救い摂られた。「本願まことだった」と疑い晴れ、本願に騙されようのない身になられたのである。法然上人の仰せどおり本願に救われたのだから、その法然上人に騙されることも、あろうはずがない。
「誠なるかなや、摂取不捨の真言」(弥陀の本願、まことだった)
と真知なされた聖人だからこそ、「法然上人になら、騙されて地獄に堕ちても、何の後悔もない」と明言されたのである。
「本願まこと」に立たれた聖人の透徹した金剛心を、関東の同行たちは、どんなに頼もしく、うれしく聞いたことであろうか。

あなたが仏教から学べるたった一つのこと

 

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