日本人の根底に仏教思想

親鸞会 アメリカ

苦難の中 生き抜く力
海外が驚く被災地の助け合い

 東日本大震災での日本人の行動に、海外から驚きと賛辞が寄せられている。なぜ日本人は冷静で、暴動や略奪など起こさず、互いに助け合おうとするのか。これまで顧みられることの少なかった日本人の〝こころ〟のルーツに、世界の目が集まっている。

 米紙「ニューヨーク・タイムズ」は、東日本大震災の翌日に載せたコラムに、〈阪神大震災でもそうだったように、商店の襲撃や救援物資の奪い合いは見られず、市民が勇気と団結、共通の目的の下に苦境に耐えていた。日本の人々には真に高貴な忍耐力と克己心がある。これからの日々、日本に注目すべきだ。間違いなく学ぶべきものがある〉(要約)と書いている。

 中国でも、「日本応援コール」が巻き起こっている。「環球時報」は1面に「日本人の冷静さに世界が感心」の見出しで報じていた。ネット上にも、〈冷静沈着さと秩序感覚〉〈非常事態でも他人様に迷惑をかけない心構えがある〉〈震災後の品不足の中でも便乗値上げが見られない〉など、多くの称賛の声が集まっていた。

 また、こうした日本の現象の精神的背景まで考察したメディアもある。
フランスの「ル・モンド」紙は、日本人の行動規範となっている思想に言及し、「日本人ならば『諸行無常』の考えは子供の頃から知っている」「仏教の教えは日本人の心情にしみ込んでいる。それがゆえに、不可避の出来事を冷静に受けとめることができるのではないだろうか」と分析した。

 さらに、「どれほど悲惨な災害といえども、それが『聖書』の黙示録のように世界の終わりを意味するとは日本人は考えない」と、キリスト教国との違いを指摘している。

 スイス最大の日刊紙「ターゲス・アンツァイガー」は、「なぜ、日本ではパニックにならないか」「なぜ、そんなに我慢強いのか」の疑問に答えて、美術史家のフォン・ホフマン氏が仏教の影響を挙げていた。

 氏は、米・カリフォルニアでの地震を引き合いに出し、〈米国人は些細な自然災害を大惨事のように受け止め、天罰だと信じがちだが、日本では全く異なる〉とし、それは〈仏教とキリスト教の違いによる〉と推測した。
キリスト教の信仰では、世界も人間も神の被造物であり、運命は神の与えたものと理解する。そのため、今回のような災害に遭うと信者は、全能の神への信頼と懐疑の間を揺れ動くことになる。

 日本はキリスト教・イスラム教のような、一神教を信奉せず、唯物論を掲げて宗教を排斥する共産主義国でもない。

 そんな日本に、世界の関心が集まる今、高森顕徹先生の英訳『歎異抄をひらく』が発刊された。その「はしがき」に、次のような一節がある。
〈人類はみな兄弟である。一人一人が、いかに生きるかを選択し、なぜ生きるかを知る自由をもつ存在であり、冷酷な運命に甘んじて従うのではなく、自ら未来の幸せの種を蒔くことができる。これら、親鸞聖人の教えに根ざした思想を支えに、日本は戦後、瓦礫の中から立ち上がり、突き進んだ〉

 未曽有の災害に遭っても、なぜ生きねばならないか。立ち向かう日本人の心の底を流れる思想に、多くの期待が向けられている。

親鸞聖人とサイデンステッカー教授

 東日本大震災の被災者の姿に、世界の多くの人々が感動したように、第二次世界大戦敗戦の焦土に立つ日本人に、同じことを感じた人がいた。
 川端康成の小説『雪国』をはじめ、日本文学を世界に広めたサイデンステッカー教授(故人)である。

 氏は自伝『流れゆく日々』でこう振り返っている。〈1945年9月の佐世保は、まこと見る影もなく荒廃していた。中心部は爆撃によって一面の焼土と化し(中略)言いようもないほど異様な光景だった〉〈(日本人は)敗戦の衝撃をかなぐり捨てると(中略)何か、新しい道を模索しなくてはならない。そう思い定めるや、人々はみな、懸命に働き始めた。瓦礫の山を片付け、家を建て、物を作り、売ることを始めたのである〉

 そこから日本、日本人への興味が生まれ、「ちゃんと日本語を勉強しよう、これは一生涯を懸けて勉強するに値する国だ」と感じたという。

 教授の功績は、日本文学、とりわけ『源氏物語』(※)を、優れた英訳で海外に知らしめた点にあるといわれる。だがこれが、教授と親鸞聖人を結びつけたことは、あまり知られていない。

※『源氏物語』は世界最古の長編小説で、心理描写や筋立ての巧みさ、文章の美しさなどから、日本文学史上最高の傑作とも評される。サイデンステッカー氏も、「至高の傑作」と呼んでいた。

『源氏物語』が書かれたのは平安時代。親鸞聖人が七高僧の一人として尊敬する源信僧都が、阿弥陀仏の救いを世に広められた時代である。『源氏物語』五十四帖中、最も優れているのが最後の「宇治十帖」といわれる。その中のヒロイン浮舟(うきふね)は、人生の苦難に翻弄された末、「横川の僧都」(源信僧都がモデル)の導きにより、阿弥陀仏に帰依する。それは筆者・紫式部自身の投影ともいわれている。

 サイデンステッカー氏が「天才」と敬愛してやまぬ紫式部が、なぜ、物語の中で自己の分身「浮舟」を、阿弥陀仏に帰依させたのか。氏はそこに深い意味を感じていたと思われる。

 なぜなら生前、仏教書の翻訳を幾ら依頼されても断り続けた氏が、親鸞聖人のお言葉で生きる目的(弥陀の救い)を明らかにした『なぜ生きる』の英訳だけは承諾したからである。

最後は浄土真宗に

『なぜ生きる』の実質的な翻訳は、氏の一番弟子が担当した。

 親鸞聖人のみ教えを翻訳する困難さに、何度となく壁にぶつかったが、そのたびにサイデンステッカー氏が、「簡単な翻訳なら幾らでもできる。これは、厳粛にして深遠なる本なのだから、難しくても、頑張りなさい」と、繰り返し励ましたという。氏のサポートなしに、英語版の完成はありえなかった。

「厳粛にして深遠な書」
 それは、翻訳に5年を要した『なぜ生きる』英語版の裏表紙に、氏の言葉として象徴的に記されている。

 サイデンステッカー氏は、何度か親鸞会館の二千畳を訪れ、親鸞聖人の教えを聴聞している。親鸞聖人のご生誕を祝す降誕会に参詣することを楽しみにしていたが、平成19年、惜しまれつつ世を去った。

 その前年の11月、教授は自宅近くの真宗寺院に自分の墓を定めたという。
「先生はカトリックなのでは?」と問われると、「最後はここに」との返事に関係者は驚いた。

 ちょうど『なぜ生きる』英訳が完成した頃のことである。キリスト教徒でありながら「最後は浄土真宗」という結論に至ったのは、弥陀に帰依した紫式部に殉じたのかもしれない。

 

ロサンゼルスに全米の法友集う

“歎異抄”の真意海外へ

親鸞会館で聞法していた サイデンステッカー教授

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