王舎城の悲劇とは

親鸞聖人は、「阿弥陀如来に救われると、イダイケ夫人と一味の世界に生まれ出る」と、『正信偈』に説かれている。

イダイケ夫人とは、この世で最初に、阿弥陀如来に救い摂られた人である。

そこには、どんなドラマがあったのか。『観無量寿経』に説かれている「王舎城の悲劇」といわれる物語が、それである。

◇   ◇   ◇

インド・ビハール州南部のパトナ県には、周囲を山に囲まれた王舎城跡が現存する。城址からは、悠々と延びる丘陵が見渡せる。

今から2,600年前、インドで、最強を誇っていたのは、都に王舎城のある、マガダ国だった。イダイケ夫人は、その支配者・ビンバシャラ王の妃であった。

国王夫妻は、物質的には何不自由のない生活を送っていたが、ただ1つ、悩みがあった。後継者の問題である。2人には子供がなかった。
「このままでは私たちの世継ぎはどうなるのかしら」

子宝に恵まれぬイダイケの不安が惑いを生み、占いの迷信へと走らせたのである。これがすべての悲劇の始まりだった。

修行者を殺害

占い師は言う。山奥にいる、ある修行者の命が尽き次第子が宿る。それまで5年を要するが殺せばそれは早まる、と。

「修行者を殺してまでは……」と重臣たちは止めたが、イダイケの説得に押された王は、300騎の兵とともに山に向かい、修行者殺害に及ぶ。

鮮血が散り、すさまじい形相で国王夫妻をにらみつける修行者。

「おのれ!この恨み……、必ず、晴らしてやる!」

凄惨な光景は、イダイケの脳裏に深く焼きつけられた。やがて、どうしたことかイダイケは身ごもったのである。

城内は、祝いに来る近隣諸国の使者でにぎわうも、夢の中で、酒宴の席で、襲い来る修行者の幻影に、イダイケは憔悴していく。夫にも胸中は理解されず、苦しみはまた、惑いを生み、再び占い師にすがる。

「実は……、この太子様……、ご両親に大変恨みをもって宿っておられます。成長されると、きっと親を殺されるお方になるでしょう」

占い師の言葉に、いよいよ追い詰められたイダイケは、ついに、世にも恐ろしい計画を立てたのである。

産室を2階に設け、下の部屋に剣の林を作る。ひと思いにそこへ産み落とすのである。ビンバシャラ王も、イダイケの必死の懇願に、共犯を担うことになった。

ところが、生まれた子供は右手の小指1本切り落としてすんだのである。

産声を聞き、もはや殺意失せた2人は、その子をアジャセと名づけ、蝶よ花よと育てるが、そのうち異常な凶暴性をあらわにしていく。

悪魔に見入られたごときわが子の暴虐に、この世の地獄へ転落していった2人は、釈尊のご説法に耳を傾けるようになる。やがて、ビンバシャラ王夫妻は、釈尊教団の強力な支援者となるのである。

提婆達多(ダイバダッタ)の策略

尊名、天下にとどろく釈尊をねたんだのが提婆達多である。釈迦に提婆。釈尊教団を乗っ取ろうと野心に燃える提婆は、釈尊を殺そうと策を練る。

1度目は、高所から釈尊目掛けて岩を落とすが失敗。足の小指から血を流されただけだった。

2度目、野象に酒を飲ませてけしかけるも、釈尊の偉大な尊容に触れた野象は、猫のようにおとなしく前足を折ってしまう。

やがて、提婆の目はアジャセへ向けられる。

釈尊の威勢はビンバシャラ王とイダイケにあると思った提婆は、巧みにアジャセに取り入り、絶大な信頼を得るようになる。時機をうかがい提婆はアジャセ出生時の小指の秘密を暴露する。「おのれー、そういうことであったのか!」

一切を聞かされ、怒り心頭に発したアジャセは、阿修羅のごとく飛び出し、ビンバシャラ王を七重の牢にたたき込んだ。

釈尊は、この王の苦しみを察知なされ、神通力第一の目連と、説法第一の富楼那(フルナ)を遣わし、説法を命じられる。

一方、イダイケは食べ物を牢へ隠し持ち、王は心身ともに命をつなぐのである。

これを知ったアジャセは激怒した。

「おれの敵に味方するやつは、母といえども敵だ、許さん!」

ついに殺母の剣は振り上げられた。その時、ガッシリと握る腕があった。側近の月光と耆婆(ギバ)である。

2人のいさめに、剣は鞘におさめられたが、イダイケはわが子、アジャセによって七重の牢にぶち込まれてしまう。

暗黒が光明の広海に

牢獄でのたうちまわるイダイケ。霊鷲山で『法華経』の説法をされていた釈尊に、イダイケの悲痛な心の叫びが届き、救済に向かわれる。

仏の慈悲は、苦しむ者にひとえに重い。『法華経』のご説法を中断されてのご決断は、釈尊出世の本懐中の本懐である、阿弥陀如来の本願を説くことにあった。

愚痴の限りをぶつけるイダイケに、ただ、釈尊は慈眼を向けられる。『観無量寿経』の有名な無言の説法である。

愚痴の行き場をなくしたイダイケが、五体を投地したのを見届けられた釈尊は、眼前に光輝く十方諸仏の国土と、阿弥陀仏の極楽浄土を照らしだされ、定善十三観と散善三観を説かれるのである。

実行して初めて、善のできない、地獄しか行き場のない者と知らされたイダイケは、深い苦悶に堕ちていった。

その時、「イダイケ、今よりその苦しみを除く教えを説こう」と釈尊が言われると同時に、お姿が消え、空中に金色輝く阿弥陀如来のお姿が現れたのだ。

阿弥陀如来を拝した一念に、イダイケの暗黒の苦悩は晴れわたり、歓喜胸に満ち、イダイケは光明の広海に浮かんだのである。

歓喜に一転したイダイケの様子に驚き、アジャセは母の手を取って牢から出す。

やがて、アジャセも真実の仏法を聞くようになり、永く正法宣布の強力な支援者となった。

かくて、仏教史上最大の悲劇は釈尊の妙手によりハッピーエンドを迎えたのである。

 

関連記事


親鸞聖人から
あなたへのメッセージ

正信偈の意味を知りたい方へ


自殺を止められた釈尊の譬え話
親鸞聖人と人生の目的
親鸞聖人はなぜ、人間に生まれたことを喜べと言われたのか
仏教は独尊的な教えではないのか
親鸞聖人と絶対の幸福
現代人には、信心などいらないのではないか
死は暗黒と消滅のみか
死が恐ろしいとは思えない
私の人生観は間違いか
親鸞聖人は運命を、どう教えられているのか
親鸞聖人と三世因果
仏教はアキラメ主義ではないのか
仏教の平等観と親鸞聖人
なぜ仏教は人の嫌がる臨終や死のことを多く語るのか
仏教の方便とは、どんなことか
仏性があるとはどんなことなのか
地獄・極楽は、おとぎ話では
親鸞聖人はなぜ、仏法を聞かなければならないとおっしゃったのか
王舎城の悲劇とは
親鸞聖人の教えと先祖のたたり
親鸞聖人の教えと故人の供養
金や物のない人は布施行はできないのか
アクセスランキング
1位 仏教講座
2位 各地の親鸞会
3位 親鸞聖人ってどんな人?
4位 浄土真宗親鸞会について
5位 親鸞聖人略年表
おすすめ記事
『歎異抄をひらく』の衝撃度
無碍の一道に出でよ 『歎異抄』第七章
信長に徹底抗戦した護法の力
三業惑乱に学ぶ
親鸞会 動画集
浄土真宗親鸞会
〒939-0395
富山県射水市上野1191
TEL 0766-56-0150
FAX 0766-56-0151
E-mail:info@shinrankai.or.jp